creature強制法勉強日記(5月8日): Judah-Repickýの保存定理

執筆者: 後藤 達哉, 執筆日: 2025年5月8日

[BJ95]のTheorem 6.1.18 ([JR95]のTheorem 3)の行間埋め. この定理は[BJ95]ではSecond Preservation Theoremと呼ばれている.

仮定

n:nωωω上の二項関係の単調増加列とし,⊑=nnとおく. 以下を仮定する.

  1. xωxωωについて{yωω:xny}ran(n)の閉集合である.
  2. Adom()が可算ならば,あるbdom()が存在し,すべてのaAについて,無限個のnが存在し,すべてのyωωについてbnyならばanyとなる.
  3. a,bωωについて,自然数nについての条件(yωω)(anybny)は推移的モデルの間で絶対的である.
定理 (Judah-Repický)

Pα,Q˙α:α<δ (δは極限順序数)をproper強制法の可算台反復とする. 各α<δについてPα-dominating realを追加しないならば,Pδ-dominating realを追加しない.

定理の証明の前に必要な定義と2つの補題を用意する.

定義 (evidence)

pP,x˙VPとする. px˙に関する(N,P)-evidenceを持つとは,ある反鎖APNが存在し,pAかつ任意のrAについてP-name y˙Nが存在しqx˙=y˙となること.

Pは完備ブール代数とは限らないためpAは,{qp:(aA)(qa)}p以下で稠密,と読み替える.

px˙に関する(N,P)-evidenceを持つというのはラフに言えば,x˙Nに属する名前に「近似的に」取り直せる状況のこと.つまりx˙そのもの全体をNの元に取り直すことは不可能かもしれないが,反鎖をとってその元ごとに名前をNの元に取り直せる,ということである.

補題1

PQ˙をproper強制法の2ステップ反復とする. p(N,P)-ジェネリックな条件とし,pq˙Q˙N[G˙]と仮定する. このとき,P-name q˙が存在し,(p,q˙)(p,q˙)かつ(p,q˙)(N,PQ˙)ジェネリック条件である.

補題2

φを強制言語の論理式でNの元のみをパラメータに持つものとする. y˙VPとする. p(N,P)ジェネリックな条件とする. py˙に関する(N,P)-evidenceを持つものとする. p(x)φ(x,y˙)を仮定する. このときx˙VPがあって,pφ(x˙,y˙)かつpx˙に関する(N,P)-evidenceを持つ.

2つの補題の証明は省略する.

定理の証明.δ=ωの場合を証明すれば十分. y˙を実数のPω-nameとし,pPωとする. 示すべきことはqpxωωが存在して,qxy˙となることである.

θを十分大きな正則基数とし,NHθを可算初等部分構造でy˙,p,Pn,Q˙n:n<ωNなものとする.

仮定の(2)より,xωωがとれて, すべてのxNについて,無限個のnが存在し,すべてのyωωについてxnyならばxnyとなる.

nについての帰納法で次を満たす列qn,pn˙:nωを構成していく.

  1. qn(N,Pn)ジェネリックな条件
  2. p˙nPn,ωに属する条件のPn-name
  3. qnpn˙に関する(N,Pn)-evidenceを持つ
  4. qn+1n=qnかつ(qn+1,p˙n+1)(qn,p˙n)かつ(qn+1,p˙n+1)xny˙

もしこれらを構成し終えたら,q=nωqnが明らかに所望の条件となる.

では構成を見ていこう.n=0についてはq0=,p˙0=pでよい.qn,p˙nまで構成が終わったと仮定して,qn+1p˙n+1をこれから構成していく.

今,実数y˙の解釈がPnで存在する.すなわち実数の名前y˙nと条件の減少列p˙nm:mωが存在して, qnn(m)[p˙nm+1p˙nm かつ p˙nmn,ωy˙m=y˙nm] となる. そこで,補題2とqnpn˙に関する(N,Pn)-evidenceを持つことより,このような性質を満たす実数の名前y˙nと条件の減少列p˙nm:mωがとれて,qny˙p˙nm:mωに関する(N,Pn)-evidenceとなる.

定理の仮定より,y˙n-dominating realの名前ではないので,「あるxVについて,xy˙nである」ことがqnによって強制される. そこで,再び補題2より,グラウンドモデルの実数の名前x˙が取れて,この性質を満たし,qnx˙に関する(N,Pn)-evidenceとなる.

qnx˙に関する(N,Pn)-evidenceとなることのwitness Aを取る. すなわち,antichain APnNかつqnAかつ,すべてのrAx˙rNがありqx˙=x˙rとなる. antichain Aを細分することにより,各x˙rは名前でなくて本当のグラウンドモデルの実数xrNだとしてよい. するとxの取り方より各rAごとに自然数krnが取れて,(yωω)(xkryxrkry)となる. Pn-name a˙rkr=a˙ for each rAと定める. すると絶対性の条件(3)より ()qn(yωω)(xa˙yx˙a˙y) が分かる.加えて補題2より,qna˙に関する(N,Pn)-evidenceとなると仮定してよい.

他方で, qnx˙a˙y˙n である. そこで,qn{yωω:x˙a˙y}は開集合"なことより,自然数の名前m˙が取れて, qn[y˙nm˙]{y:x˙a˙y}. 補題2より,qnm˙に関する(N,Pn)-evidenceとなると仮定してよい.すると()を使うと, qn[y˙nm˙]{y:xa˙y}{y:xny}. となる.

p˙n+1=p˙nm˙[n+1,ω)とおき,補題1より,ジェネリックな条件qn+1Pn+1を取り,qn+1n=qnかつqnqn+1(n)p˙nm˙(n)なように取る.

(qn+1,p˙n+1)(qn,p˙nm˙)y˙[y˙nm˙]{y:xny}. であることに注意する.

また,qn+1p˙n+1に関する(N,Pn+1)-evidenceである. qny˙p˙nm:mωa˙に関する(N,Pn)-evidenceだからである. ここから,antichain APnNqnAですべてのrAについてS˙,M˙VPnNが存在し,rp˙nm:mω=S˙,M˙=m˙となる (2つのantichainを「合成」することになるがそれは可能). このantichain Aの各元に最大元1を末尾に追加してPn+1のantichain Aを作れば,それがqn+1p˙n+1に関する(N,Pn+1)-evidenceであることのwitnessとなる.

(証明終わり)

この定理は,proper強制法の可算台反復の文脈で,たとえば「(ωωの)dominating realを追加しないこと」の保存,したがってbの保存などに有効である.

参考文献